エンジニアリングマインドを持ち続ける
世の中に人工知能が浸透した現代。さまざまなことが便利になり、人間が思考しなくても、正解がすでに用意されている状況になってきました。ところが、人工知能の活用が進むと仕事も生活も楽になるのかといえばそうではなく、現在は労働者不足が深刻になっています。一見、人工知能があれば、これまで人間していたことをこれからはしなくて良くなるように思えるものの、実は逆の現象が起きている。熟練した職人が高齢化し次の世代に技術が伝承できていないといったことが非常に大きな課題となっています。
私たちシーマイクロが持つ画像処理の技術は、そういった労働者不足の現場で必要とされているものです。このような技術をもっともっと世の中に広げていかないと、世の中が回っていかない。潜在的なニーズはどんどん膨らんでいます。今後はそういった企業や地域の課題に対して積極的に取り組めば、もっとビジネスは拡大していくのではないかと思います。必要とされているにも関わらず、まだまだ間に合っていない状況でどう動くかがこれからの鍵かもしれません。
時代が変わり、これまでの技術を伝承していくことが非常に難しくはなっています。シーマイクロだけではなく世の中全体で「これを直せる人はもういない」「こういうことを知っている人はもういない」というような話がよく聞こえます。
例えば、何か一つのものに興味を持ち、どうなっているんだろう、どうしてこんな動き方をするんだろう、と思い、分解してみる。自分にもつくれそうだと気づく。そうやって、ものに興味を持ち、理解していくことが、エンジニアリングマインドであり、技術を受け継ぐものは、こういったマインドを持っていることが重要になってきます。
1960年生まれの私たちの時代は世の中にまだないものが多かったので、あるだけでありがたいと感じられ、何をつくっても以前より便利になりました。今後は、最初からあるものを、より良く、より便利にするという視点になっていく気がします。どんなものでもおおむねある現代では、この一部分が不便だからそれを改善しようというように視点を変えていくことが大切です。

やりたいことをやるため方針と哲学を明確に
これからの時代を生きる社員に私が伝承していきたいのは間違いなく、やりたいことをやるというマインドです。要するに面白くないことはやらない。お金をいただくんだから嫌なことでも我慢してやるというのが、仕事をする際のマインドになってしまうと良いものはできません。そうではなく仕事が好きで、もっとやりたいからやるという考え方で仕事をしていただきたい。それでこそ、いいものができるし、場合によっては大化けするような、そんな世界をつくる可能性が生まれる。自分が楽しくないことを一生懸命したとしても、他の人から評価されるということはまずないのではないかと思うんです。それを一番、社員に伝承したい。
人間関係はすごく難しく、おそらく若い人たちも堪えがたい嫌なしがらみなどにぶつかることがあると思います。まずは、自分自身が成長して、環境に調和するよう努力すべきですが、それでも私は、嫌な関係は結果として長続きはしなかったと思います。確かに目先の利益を考えると我慢して付き合わなければという気がしますが、それをしてしまうとモチベーションが落ちる。落ちると、いい仕事ができない。モチベーションの低い時間が長ければ長いほど、人生は無駄です。結果の出ない時間が長くなるだけです。だったらやりたいことを少しでも長くやって成果を出そう、そんなマインドで仕事をしてください。もちろん、嫌な環境でも視点を変えて好きになるとか、自分が成長して好きになることも重要です。そうしたら人生は豊かになるし、余裕もできる。目の前だけでなく周りを見て動くことで、深いところまで知識を得ることができる。
やりたいことをやるには、そのための潜在能力と技能が必要です。自分自身にしっかりとした方針や哲学が必要なのです。やりたいことをやるというのは、実は厳しいことなのです。やりたいことをやり続けるということは、さらに厳しいことだとわかって、やりたいことをやってください。

枠組みに囚われず世界に必要とされる製品を
今は、余裕がないと誰もがいう時代です。でも余裕がないと文化は醸成されません。もう20年以上も前の話ですが、私が訪問したドイツの画像処理企業の技術者は、みんな早く帰っていました。さらに夏休みが2ヶ月ある。キャンピングカーでヨーロッパ中をトレーラー引いて旅行して、2ヶ月後にリフレッシュして仕事するんだと言っていました。そのころ私たち日本の企業は、ドイツが遊んでいる間に追い越せ、この国の会社を超えてやろうと戦っていましたが、今はGDPもドイツより下がってしまった。いかに時間ばかり消費して、仕事ばかりやる苦しさや努力が無駄だったかが証明されています。そんなことをするぐらいだ ったら、自分がやりたいことを徹底的にやればいい。それが成功の秘訣ではないでしょうか。気がついたところからみんな変わってほしい。真面目で指示された仕事をこなすだけでは、何より私が付き合っていて面白くありません。
誰かが何かを決めてくれないとできない人、何をしたらいいですか?命令してくださいという人が増えている時代だからこそ、世界を見て広い視野を養ってほしいと思います。世界で通用する企業になって世界で仕事をしていこうという背景には、世界を見てきてほしいという思いがあります。ヨーロッパやアメリカに行く機会が増えると、日本の良いところはここで、悪いところはここだ、という視点ができます。ヨーロッパは個人主義で、個が独立しています。日本も明治維新の頃には、個の独立があってこそ、国が独立するんだという意識があったわけです。国の独立を目指すのであれば、その前に自分が独立しないといけないと思っていた。いいところは当然残していかないといけないですが、今の日本人には変わらないといけない部分がたくさんあります。そもそも日本という枠組みに縛られる必要もありません。日本という枠組みを飛び越えて、世界で羽ばたき、世界に必要とされる製品を、50年後、100年後もつくり続けてほしいですね。
相談役 増田 眞一